邂逅 アナスイの財布

アナスイの財布を初めて見たのは、5年前だった。
白い人造大理石とウッドをベースにしたホテルの洗面台に置かれていたその財布は、紫をベースに、アナスイのバタフライがあしらわれ、しっかりと存在感を放っていたのだ。

俺は、やや失礼なマネだと頭の片隅で思いながら、それでもさすがに手にはとらずに、その財布をシゲシゲと見てしまった。
「何みてるん?」
彼女が言う。
「いやぁ、ずいぶん存在感のある財布だなぁ、と思って」
「アナスイのね、ドルチェパープルだよ」
今ならわかる。彼女は、いたくそのアナスイの財布が気に入っていたのだ。

当時俺は、アナスイの何たるかも知らない。財布がドルチェパープルと言われてもよくわからない。だから気のない「ふぅん」という返事しかできなかったんだ。
・・・いや、少し違うかもしれない。わかっていなかったのは、アナスイの財布ことではなく、彼女の気持ちだったのだ。

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