開眼 アナスイの財布

アナスイの財布について、気のない俺の返事に、彼女は少し気を悪くしたようだ。
「これ、ニューヨークのブランドなんよ。」
「ドルチェパープルは、その中でも、黒とか赤とかに比べたら、高いほうなんよ。」
アナスイの財布について、熱を込めて説明をはじめた。

今ならわかる。
けして潤沢といは言えない給料から、彼女は、無理して買ったんだろう。
アナスイの財布について気のない返事をした俺だが、それが悪かったと思うこともできないくらい、俺も若かったのだ。

俺は、アナスイの財布の話題に興味がもてなかった。

伊勢丹が最初に輸入をしたとか何とか言い出したので、俺はその退屈な話題をそらすことに努めた。
「伊勢丹って、バレンタインのチョコも最初にやったんだよな。たしか新宿店だったと思うけど。」
「あら、そうなん?」
「トップからじゃなくて、わりと現場に近いところからのアイデアだったらしいよ。」
とりとめのない話が、とりとめもなく続く。

だが、彼女は、きっと、もっとアナスイの財布について話しをしたかったんだろう。
どうして、俺は、もっと話を聞いてやらなかったんだろう。
チョコレートもアナスイの財布も、とりとめのなさは、一緒じゃないか。
彼女の心が、がんばって、アナスイの財布を買った彼女が、話を聞くことで、嬉しくなれるなら、もっと聞いてやれば、よかった。

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